やきいもやさんがとおる
崩れ落ちた本の山の中に、一冊の文集を見つけた。
「まつぼっくり」と書かれた薄桃色の表紙をぱらぱらと捲ると、そこに私の名があった。
「やきいもやさんがとおる」 一の三 たかはし まり
せんせい、あのね。
いっつもよるになると、うちのちかくにやきいもやさんがくるから、とってもたべたくなるんだよ。
それに、おかあさんまで、「たべたいね。」というんだよ。
ふたりのおねえちゃんたちまでいうんだよ。
わたしだってたべたいのに。
それに、うちのおとうさんだっていうんだよ。
だから、わたしは、いっつもよるごはんのときこまるんだよ。
きょうは、また、ちかくにやきいもやさん、こないといいなとおもうけど、やきいもやさん、ちかくまでくるだろうなあ。
せんせいはどうおもう。
もう二度と、これ以上の文章は書けない。
けれども、この時のわたしを、私は決して失くしてはならない。
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