ひとり と ふたり

人を数える時、どうして一人と二人だけ呼び方が違うのか、君は知っていますか?

ひとりとふたりは、もともと同時に生まれた双子だったのです。

誰かと一緒にいると、相手と自分の似ている所を探してしまったりするでしょう?

けれど複雑な事情で、ひとりとふたりは一緒に暮らすことができませんでした。

それぞれ違う家へ引き取られ、離れ離れに育てられました。

そして成長し大人になるまで、ひとりとふたりが会うことはありませんでした。

大人になったひとりとふたりに、両親は初めてひとりにはふたりの、ふたりにはひとりのことを打ち明けました。

ひとりとふたりは育ててくれた両親を憎んだり攻めたりしませんでしたが、ひとりはふたりに、ふたりはひとりに、とてもとても会いたくなりました。

誰もが心のどこかでまだ見ぬ運命の人がいて、いつか巡り会えると信じているのは、きっとそのせいです。

そうして一人でいると、そこにはいない誰かのことを想ってしまうのです。

ひとりとふたりは胸の鼓動を高鳴らせながら、初めて連絡を取り合い、会う約束を交わしました。

そして、ようやくその日が訪れました。

初めて(正確に言えば二度目に)会った二人は本当に瓜二つで、まるで自分を見ているようでした。

ひとりとふたりは顔を見合わせ、思わず微笑みました。

離れて過ごした長い年月も、幻のように思えました。

初めて会った誰かに不思議と故郷の風景のような、懐かしい感覚を抱くことはありませんか?

それはこんな記憶の一片がふいに立ち昇って来るからかもしれません。

ひとりとふたりはお互いのことを、別々の長い間の出来事を、たくさんたくさん話しました。

ひとりとふたりはこれから一緒に暮らすことも考えましたが、ひとりにはひとりの、ふたりにはふたりの、それぞれの家庭があり、人生があることを、ちゃんとわかっていました。

そしてありったけの真心を込めて、きつくきつく握手を交わし、それぞれの家へとまた元来た道を帰って行きました。

それからひとりとふたりがどうなったのか、また会うことができたのか、私にはわかりません。

けれども、ひとり と ふたり が、どことなく哀しげに響くその訳を、君にそっと伝えたくなったのです。