四番目の博士

その昔、日曜学校のクリスマスミサで神父様が話してくれた小さな物語を、ふと思い出した。

それは、キリストがお生まれになった時、東方から星に導かれ贈り物を持ってやって来たという博士の物語で、三博士として知れ渡っているが、本当は博士は四人いた、というお話だった。

旅の途中、一人の博士の身の上に何かが起こり、彼はやむなく一人東方へと引き返した。

その理由を私は忘れてしまったが、とにかく彼がその目で幼子を見る願いは叶わなかった。

それから30年あまり経った後、博士はようやくあの幼子に会う事ができる。

その時、救い主としてお生まれになった筈のその御方は、皆の前で十字架に張り付けられ、身体からたくさんの血を流されていた。

苦しみの内に息を引き取られたキリストに近付くと、流れる血の川の中に、何か光るものが見えた。

それを拾い上げると、それはキリストの流した涙のような真紅の宝石であった。

そして、それはまさしくあの時博士が幼子へ渡す事ができなかった、贈り物そのものであった。


この物語を話してくれた神父様は、あまり愛想がなく、少し近寄り難い雰囲気もあったので、決して子供たちの人気者ではなかった。

一緒にお喋りしたり遊んで貰った記憶もほとんどないが、このクリスマスのお話だけはとても印象に残っていて、その鋭い眼光の奥の遠い記憶をたぐり寄せるような語り口に、ひょっとしたら神父様こそがその四番目の博士なのでは‥と思ってしまう程だった。  


教会にきれいに飾られた馬小屋を眺めながら、そこにはいない四番目の博士のことを、彼の人生のことを今年は何故か思い巡らせていた。

Merry Christmas, Mr.Loneliness.